差別化
就職活動をしていたとき「誰にも負けないものってありますか」とよく聞かれた。会社に入って社会人に成り立ての頃も社長や役員の訓示でこれだけは誰にも負けない、という武器を持ちなさい、ということをよく言われた。
確かに誰にも負けない差別化できる要素は大事だ。自分の存在価値でもある。自分である必要がなければ他の人と代替が可能になり自分の価値が下がってしまう。洋々の受講生にも自分の差別化ポイントはどこかということをよく聞く。書類や面接で勝負するAO推薦入試で合格するためには1点でも多く取ればよいペーパーテストとは違い採用する側がその人を選ぶ理由が必要になる。何らかの形で他の受講生とは違うところをアピールすることが求められる。
しかし、どうやって差別化するかということを考えると、何かわかりやすくて、語や数値で表すのが簡単な指標を探してしまいがちだ。英語が1番できる、足が1番速い、というようなことだ。確かにわかりやすいがそういう明確なものである必要はないし、そういう明確なものの価値がより高いというわけでもない。公的な資格も同じで履歴書に書きやすいし、プラスにはなるが、それがその人自身の価値に占める割合は多くの人が思っているほど高くはない。今社会で活躍している人材を思い浮かべてみても何かの分野で1番だったから活躍しているというわけでもなさそうだ。
差別化は無理矢理するものでもないと思う。他の人がやっていないことをすること、たとえば誰も知らないような言語を学んでみたりするのは悪くないとは思うが、それが自分に合ったものでないと取って付けたような形になってしまう。企業の商品であれば市場や競合の状況を考慮して新たにポジショニングしたものを自由に企画することもできるが自分自身をそう簡単に変えることはできない。それまで蓄積してきたものがあっての今の自分だ。差別化するのであれば自分がすでに持っているものを活かさない手はないし、逆にそうでないと大した差別化にならない。
自分が誰にも負けないのはこれだ、と一言で言えなくてもいい。無理に差別化しようとしなくても、自分がどういう人間であるのかを考え、自分がやるべきことを自分自身で考えていくことができれば、他の人にはない自分だけのものを(一言で説明できなくても)形作っていくことができる。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。