総合型選抜と生成AI
ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な進歩は大学受験にも影響を与えている。上智大学では今年から公募推薦の募集要項に「出願書類の作成において、ChatGPTなどの生成 AI を用いてはいけません」と明記するようになった。青山学院大学の自己推薦入試においても「人工知能等での自動生成や他者による作成を禁じます」という記述が加わった。
ChatGPTの進歩には目を見張るばかりで生成する文章自体はすでに人間の書いたものと区別がつかない自然さを持つ。文章の構成もしっかりしていて小論文も書ける。たとえば早稲田大学社会科学部の自己推薦入試では小論文の試験として
「SNSの発達が社会に与えた良い影響と悪い影響について、あなたの考えを800字以内で述べてください」(2023年度)
「家庭内の暴力や虐待の防止と、被害者およびその家族の支援のために必要なことについて、あなたの考えを800字以内で述べてください」(2020年度)
といった、いわゆる1行問題が出題されるが、こういった問題であればおそらく合格レベルの回答を瞬時に生成することができる。ただ、こういった小論文の試験は試験会場で監視付きで行われるので、当然ながらChatGPTを使うことはできない。
一方で事前に自身で準備する志望理由書や自己推薦書といった出願書類作成においては募集要項の注意書きに関わらずChatGPTの活用を試みる受験生は出てくるだろう。ただ、(大学にとっても洋々にとっても、そして受験生にとっても)幸いなことに現時点では他の受験生と差別化できるような書類をChatGPTを活用して作成することは難しい。ChatGPTが作成する文章は当たり障りがなくつまらない文章になりがちだ。小論文の試験ではつまらない文章でもロジカルで説得力があれば合格できるが、志望理由書の場合はその人らしい個性が求められる。今の段階ではどうしてもChatGPTっぽい文章になってしまう。
ただ、これまでの進化のスピードを見ていると、今後、その人の過去の経験に基づいた個性的なエッセイを生成するAIが出てきても何の不思議もない。ChatGPTが現時点で当たり障りのない文章を生成するのは人を傷つけることがないようプログラミングされているからということもあり、能力的にはすでにより個性的な文章を作成できるようになっている可能性もある。差別化できる志望理由書を生成AIが作成できるようになったときには出願書類の重みが減り、実際にその受験生に会っての面接やその場での小論文の試験が中心になってくる可能性はある。
※ 大学受験におけるAI使用について読売新聞の取材に答えました。
大学が出願書類に「チャットGPT」使わないよう呼びかけ…専門家「面接・筆記試験で能力見極めの動き強まる」(読売新聞)
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。